『漢辞海』第四版が掲げる「日葡辞書の読み」の注意点
- 作者: 戸川芳郎,佐藤進,濱口富士雄
- 出版社/メーカー: 三省堂
- 発売日: 2016/10/26
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
[改訂の重点の]第三点は漢字熟語の音読みに『日葡辞書』の読みを加えたことである。我が国中世の作品『平家物語』『徒然草』などでは、上洛をショウラク、中秋をチュウジュウと読む。そういう読み方は従来の漢和辞典には記載が無く、十六世紀の『日葡辞書』のみが役に立つ。本辞典の熟語で普通の読みと異なる『日葡辞書』の読みがあればそれを書き加えた。
(第四版の序、3頁)
当たり前のことですけれども、こういうものが出てきたら『日葡辞書』を実際に引いてみてくださいね!以下述べるように、『漢辞海』だけでは誤解しかねないところもありますし。そういう意味では、『漢辞海』が『日葡辞書』を手にとるきっかけを作ってくれるわけですね。なかなかいい話。
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/11
- メディア: 大型本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: オックスフォード大学ボードレイアン図書館所蔵,月本雅幸解題
- 出版社/メーカー: 勉誠出版
- 発売日: 2013/01/10
- メディア: 大型本
- クリック: 43回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
(『邦訳 日葡辞書』。ピンボケすいません・・・)
「ケイテイ」と「キョウテイ」は「文書語」だそうだ。こういう発見があるので、必ず元の『日葡辞書』にあたってもらいたいと思います。
それにしても、『日葡辞書』に載っている読みであっても、本辞典で「日本での用法」と認めたものについては『日葡辞書』に掲載されていることを注記しないのは少し厄介ですね。
「日本での用法」として「夕方。ばんがた」が掲出されていますが、「バンケイ」「バンゲイ」という二つの読みが示されています。
そこで、『日葡辞書』を引いてみると「バンケイ」(Banqei)には「夕方の景色」とあり、「バンゲイ」(Banguei)には「Cure(暮)に同じ。四時にまだ少し間のある夕刻」とあるのです。これを素直に読めば、意味の違いで「バンケイ」と「バンゲイ」の読みわけがなされていたようにも見えます。さて、どうなのでしょう。
また、「執事」は『日葡辞書』では「シッシ」(Xixxi)とあります。意味は「主君の家中にあって、万事を管理する頭株の人」というわけで、おそらくは「日本での用法」でしょう。しかし、『漢辞海』ではこの語義は採られず、結果的に「シッシ」の読みも掲出されません。
というわけで、『日葡辞書』はちょっと面白いので、みなさんもひいてみましょう!