競走馬における兄弟・姉妹

競馬ファンには常識でも、一般にはあまり知られていないことについての小咄を(好評ならばシリーズ化)。
拙ブログで「全妹」とか「半弟」といった聞きなれない単語が、たまに出てきていることにお気づきでしょうか。これは、言うまでもなく、馬同士の兄弟姉妹関係を言い表す用語なのですが、それを理解するためには、競馬界でのある約束事を把握しておく必要があります。
大事なことなのですが、競走馬の世界では、同じ父馬を持つ馬同士は決して兄弟姉妹とは呼びません(つまり、「腹違いの兄弟」という概念がないということ)。兄弟姉妹と呼び合うのは、同じ母から産まれた馬同士だけなんですね。これでもうお分かりだと思いますが、異父兄弟・異父姉妹については「半兄」「半弟」「半姉」「半妹」、そして、父親も同じ場合(要するに、血統表がまるっきり同一の馬)は「全兄」「全弟」「全姉」「全妹」といって区別するわけです。
全兄弟の間柄で、年長者も年少者もともに活躍した馬といえば、誰でもすぐに想起するのは、アグネスフライト号(2000年ダービー馬)とアグネスタキオン号(2001年皐月賞馬)で、いずれも父サンデーサイレンス・母アグネスフローラ。少し前になると、「太陽の王子」モンテプリンス号とモンテファスト号もそう(父シーホーク・母モンテオーカン)。兄弟揃っての天皇賞馬です。
半兄弟の関係で活躍した馬というのは結構いますが、なんといっても、ビワハヤヒデ号とナリタブライアン号は、実力・話題性ともに抜きん出ていましたね。一年違いの兄弟でしたが、結局、直接対決は実現しませんでした。三冠馬である弟は、今は天国の競馬場で静かに兄との一騎打ちを待っています。この二頭の母はパシフィカスビワハヤヒデの父はシャルードナリタブライアンの父はブライアンズタイム。余談ですが、ナリタブライアンにはビワタケヒデという全弟(1995年生まれ)もいまして、こちらも重賞ウィナーでした。今、彼は種牡馬として、亡き兄の分まで頑張っています。
実戦経験のないルーキー馬の競走(いわゆる「新馬戦」)は、どうやって予想するのか、という質問を受けたことがありまして、まあ色々あるのですが、兄あるいは姉の能力と実績というのが大きな要素であることは間違いないわけです。もちろん、兄姉が強かったからといって、弟妹たちも同様の力を有している保証はありません。
遠藤登『競馬兄弟伝』が参考になります。ただ、本書で何度も出てくる「愚兄」「愚弟」といった言葉は、生理的に受け付けられません。