柳に小野道風(3)

 私事でバタバタし、更新が滞りまして。


 柳の5点札、赤い短冊。『枕草子』の「なまめかしき物」の段に「柳の萌えいでたるに、青き薄様に書きたる文付けたる」とあり、柳の枝に青色系統の料紙を添える例は、

しりへのかたのかぎり、こゝにあつまりてならす日、女房にかけ物こひたれば、さるべきに、物やたちまちにおぼえざりけむ、わびざれに、青き紙を柳の枝にむすびつけたり。

(『蜻蛉日記』中巻、安和二年三月)あるいは、

日さしあがるほどに起き給て、よべの所に文かき給ふ。「いみじう深う侍りつるも、ことわりなるべき御けしきに出で侍りぬるは、つらさもいかばかり」など、青き薄様に、柳につけて、……

(『堤中納言物語』、花桜折る少将)などと古典文学に散見します。手紙を結びつけるものと手紙そのものは同色系でまとめるのが原則でしたから、柳の緑葉との組み合わせで青い紙を用いることは納得できるところで、花札で用いられる赤い短冊は王朝的美意識に反しているように思えます(参照、「菖蒲に八橋(2)」)。では、以下の例は?と反論があるかもしれません。

次の日、仲頼して御文あり。
  いかにせん うつつともなき 面影を 夢と思へば 覚むる間もなし
紅の薄様にて、柳の枝に付けらる。

(『とはずがたり』巻二)これは、緑と紅の組み合わせによって、「柳に小野道風(2)」で紹介した『古今和歌集』の素性の歌「柳桜をこきまぜて」の趣向を表現しようとしているのです。