柳に小野道風(2)

 柳の10点札。柳の枝の間を縫って飛ぶ燕が描かれています。

紫燕は、柳樹の枝にたわぶれ、白鷺は、蓼花の蔭にあそぶ。かやうの鳥類までも、おのれが友にこそまじわれ。

(『曾我物語』巻九・十番ぎりの事)自分と相性の良い相手と交わることの譬えとして取り上げられる柳と燕。大陸伝来の組み合わせでして、例えば杜甫「柳辺」詩に「紫燕時翻翼」(紫燕時に翼を翻し)と登場しますし、後世になると画題としてもよく見られるようになるものです。
 それにしても、20点札に描かれる蛙は冬眠動物ですし、燕は「仲春之月……玄鳥至」「仲秋之月……玄鳥帰」(『礼記』月令)とあるように、冬には姿を消す渡り鳥なので、どちらも11月の札に出てくるのは不審だといわざるをえません。柳も基本的には春の風物――「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」(『古今和歌集』春上・素性法師)――です。
 しばしば、花札は日本古来の季節感や美意識といったものを見事に演出している、といった話を耳にしますし、私もそれを否定するわけではないのですが、子細に見ていくと、オーソドックスな季節感から逸脱しているものがあるのもまた事実なのです。