そろそろこれについて書いておくか――「心ずかい」と「心づかい」

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 これについて一言述べよ、と言った友人がいるので、この場を借りて。
 まず、「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」は「四つ仮名」という術語で呼ばれ、その使い分けの問題は今に始まったことではなく、昔から議論されてきました。
 で、話を現代に飛ばしますが、四つ仮名は大変面倒くさい問題を抱えているので国語政策として仮名遣いを単純化しようとしました。現代かなづかい(1946年11月16日内閣訓令・告示、および「改定現代仮名遣い」、1986年7月1日内閣訓令・告示)においては、原則として「じ」「ず」を用いる、特別な場合に「ぢ」「づ」を用いる、とされたわけです。
 では、特別な場合って何?ということですが、一つは、同音の連呼と呼ばれる場合で、たとえば「ちぢむ(縮む)」とか「つづく(続く)」といった例。
 そして、もう一つが今回の件に大きく関わりますが、「はなぢ」とか「みかづき」のように、「はな(鼻)」+「ち(血)」、「みか(三日)」+「つき(月)」と二つのことばが連合して連濁する場合です。もうすでにいろいろな所で指摘されているでしょうけど、「心遣い」は、「こころ(心)」+「つかい(遣、使)」の要素に分解される複合語ですから、「こころづかい」というのは現代仮名遣いのルールに照らし合わせると、特別に許容される仮名遣いということになります(追記:http://b.hatena.ne.jp/kuzan/20090318#bookmark-12567258 の御指摘通りで、「特別に許容」ではなくて、そのように書く、ということでした)。
 これが実は厄介なのです。「はなぢ」や「みかづき」はまだわかりやすいとして、では「盃(杯)を交わす」、これはどう表記しましょう。「さかずきを交わす」と書く人が圧倒的に多いはず。そもそも、「さかづき」ではIMEは「盃(杯)」に変換してくれませんでした。しかし、これは語構成としては「さか(酒)」+「つき(坏)」です。坏というのは、要するにお椀を意味する古語ですね。しかし、これを2語の連合だと意識しない(現代のほとんどの)人は、現代仮名遣いの原則に従って「さかずき」と書くことになります。「さかずき」と書くのももちろん大丈夫ですし、逆に、「さかづき」と書いてもいいということ。
 「心遣い」も似たような問題です。本来ならば複合語であることばを、1語ととるか2語の連合ととるかは、世間の慣習による部分が多いでしょうけど、個人の意識によって左右されますよね。みなさんだって、普段は、どのことばが複合語か、なんてあまり考えませんよね?話はそれますが、たとえば、「まぶた」は「ま(目)」+「ふた(蓋)」です。冗談ではないですよw 大和言葉というのは一音、二音のことばが大変多いので、三音・四音以上のことばは一音・二音のことばの複合ではないかと疑ったほうがはやい。
 「心遣い」を1語ととれば「心ずかい」も構わないでしょうし、それを2語の連合ととれば「心づかい」で書くべきでしょう。そういう幅のなかに我々日本語話者は生きている。それでいいのではないでしょうか。