『角川新版日本史辞典』がiPhoneアプリで出たらしい――付・辞書を作る難しさ

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 『角川新版日本史辞典』は一回も使ったことがないので、出来の良し悪しはわかりませんが、Geeky な人文系院生や研究者には良いのではないでしょうか。たしかに、電子辞書を持たずに外出して、元号から西暦を知りたいときとか人物の生没年を知りたいときはたまにありますからね。たいていのことは『歴史手帳』で間に合いますけど。
 ところで、iTunes ストアにカスタマーレビューが書いてあって、星1つの人が、なんと申しますか、これはこれはということをお書きになっている。
‎「角川新版日本史辞典」をApp Storeで
 見たところ、一つ一つの項目はごく簡潔に記述されているようですが、この紙幅で「偏向した史観を押し付けて」いるとは、それはそれで見ものではないでしょうか。
 偏向云々についての冗談はさておき、辞書の記述には気を使います。競合する他の辞書との横並びを避けて新味を出したい、でも、やはり標準的なことは押さえなくてはいけない。分量の制限があるので悩ましい。バランスを取りたいところですが。
 新しい知見(とされるもの)をどれだけ盛り込むべきかは特に注意が必要で、私はいつも谷沢永一氏の『日本古典文学大辞典』(言うまでもなく優れた事典で、私も常用していますが)に対する短評(「辞書へのご希望を一言お書き下さい」欄)を思い出すのです。

『日本古典文学大辞典』(岩波書店)第五巻554〜556頁の如く公認されていない自説を述べるような筆者を敬遠していただきたい。

(「はがきアンケート 私の愛用辞書――その二」、『月刊 言語』1985年4月号、129頁)
 どの項目なのか関心のある方は直接御覧になってください。日本古典文学を専門とする方々が御覧になれば、「ああ、これか」と、奥歯に物が挟まったようなというか、二の句が継げないというか、そうなるような記述があるわけで、たしかに難しいところです。