日本書紀円威本翻刻の疑問点二、三

國立臺灣大學圖書館典藏日本書紀影印·校勘本 1 圓威本 /臺灣大學典藏全文刊本 精装
〔日〕是澤範三 山口真輝 主編 洪淑芬 翻譯
出版社:國立臺灣大學圖書館
出版年:2012年01月
コード:363675   297p  27cm ISBN/ISSN 9789860315714

http://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=363675&bookType=ch

 円威本の影印は、その一部を山口真輝氏「『御巫本日本書紀私記』の和訓について――台湾大学蔵『円威本日本書紀』万葉仮名傍訓との比較から――」(『訓点語と訓点資料』記念特輯号、1998年3月)108〜111頁で拝見した以外は(ほかにあった気もしますが、思い出せません)見たことがなかったので、喜ぶべき影印本の刊行です。しかも鮮明なカラー刷り(見開きで左のページに影印、右のページに翻刻)。
 しかし、ぱらぱらと目を通してみると、翻刻の部分に疑問とする点がなきにしもあらず。60頁の「和」の傍訓「シ」は「ワ」の誤り、という明白な例もありますが、以下のものはどうでしょう。
 たとえば12頁「其父」の傍訓を「ツノカソニ」にします。しかし、写真をよく見てみると、「ツ」の二画目にあたる点は墨書ではなくて単なる汚れのように見えます。

 穏当な訓である「ソノカソニ」とすべきではないか。
 また、24頁「吊」の傍訓「トフクウ」。

 なるほど、たしかにそう見えます。ただし、別の箇所の「吊」の傍訓、これを「トフラウ」(56頁)と翻刻しているのですから、24頁の例も(やはり穏当な訓である)「トフラウ」でいいのではないか。

 円威本筆者の書く「ク」と「ラ」は非常に紛らわしいことがあります。

 「ミツカラニ」(90頁)
 もちろん、この判断は微妙なところです。
 不朽の大著『校本日本書紀』(第三巻)を按ずるに、円威本の訓として「其」は「ツノ」とし(50頁)、「吊」は「トフクウ」(104頁。おまけにもう一個の「吊」は「トフラウ」266頁)としています。影印本の刊行をきっかけに、校本を問い直していくような取り組みも今後続ける必要があるように感じました。