「蹄」の古訓「ツマフサ」

 

 ↑をつらつら読んでいたところ、第十章「平安初期における訓読語の変移」(初出1998年)第二節「平安初期の前半期訓点資料と後半期訓点資料との語彙の比較」において、石山寺蔵『大方広仏華厳経』古点(第二種点、貞観年間頃の加点)と観智院本『類聚名義抄』所収の和訓を比較していまして、「観智院本類聚名義抄に収載されていない和訓」の一つに、

ツマフサ 蹄 巻六十六

(802頁)と。「蹄」は普通は「ヒヅメ」「アシ」等と訓むことが多いと思うのですが、これは一体何でしょう。おそらく語構成は「ツマ」+「フサ」で、「ツマ」は「ツメ」(爪)の被覆形でしょうけど、「フサ」がどうにもわかりません。「輔佐」かなとも思ったり。
 石山寺の『大方広仏華厳経』の訓点語については、専著である、

石山寺本大方広仏華厳経古点の国語学的研究

石山寺本大方広仏華厳経古点の国語学的研究

にまずあたるのが常道なのですが、今回はその第六章「語彙」第二節「語彙抄」(223〜320頁)にも考察は見られませんでした。残念。
 そこで、今、『訓点語彙集成 第五巻 た〜と』で確認したところ、「ツマフサ」の例は拾われていているのですが、

「存疑」・・・うーむ。訓点語彙集成に収録されたのは石山寺蔵『大方広仏華厳経』ではなく、興福寺蔵『妙法蓮華経玄賛』(11220002)の訓のようです。だとすると、単に「存疑」では片付けられないのではないかという気がします。どうでしょうか。
【追記】『安驥集』のような馬医書の類を見てみますと、「つまふさ」(つまぶさ)は普通に出てくる表現でした。ただ、その場合も「爪ふさ」となっているものが多く、「ふさ」の正体はなお不詳です。