絵画中の時間の流れ

 漫画の左右の向きの研究史 - ピアノ・ファイア これと似たネタは私も授業で取り上げています。
 これが西洋版の「人生の階段」

File:Talamantes Steps of life (male).jpg - Wikimedia Commons)時間の流れは左から右。
 これが日本(『熊野観心十界曼荼羅』)になると年齢の進む方向が逆になる。
 http://www.kumano-etoki.jp/jikkai_mandara.html(「2 老いの坂」の部分)
 書字方向が関係するというのは間違いないでしょう。

ヨーロッパの方が、左から右へ進むものに対し、日本のが右から左へ進む形になっているのは、それぞれ文字を書き進める順序に導かれたのであろう。

(萩原龍夫氏「人生行路のかけ橋 『熊野観心十界曼荼羅』」(イメージリーディング叢書『絵画の発見』平凡社、1986年)137頁。
 なお、この問題に関しては屋名池誠氏「絵巻の時空構成を書字方向から考える」(『別冊國文學60 左右/みぎひだり』2006年)も必読です。

 アニメーション監督して名高い高畑勲氏は、『十二世紀のアニメーション――国宝絵巻に見る映画的・アニメ的なるもの――』(徳間書店 一九九九年)で、『信貴山縁起』の「剣の護法」のシーンについて、巻き戻しは想定せず、右場面から左場面へ「開展方向」のまま読み、「語り」のレベルでの時間の遡行と解釈することを主張している。
 物語が、「語り」の一方法として、a 物語世界内部の時間では結果であるものを先に提示し、b その過程をあとで提示することは、唐突さを表現するため(aの効果)や、種明かしのため(bの効果)にあってもよいことだが、それなら「空間の方向性」をもたないAタイプ*1の絵巻にそうした例がないのはなぜなのかが説明されなければならない。

(74頁)

*1:「このタイプでは、場面内に描かれているものの空間的位置関係こそ問題にされるものの、その場面には描かれていない物語世界の他の地点・地物の空間的位置関係は問題にされない。このタイプの絵巻では移動は常に左方向にしかおこなわれないが、これは時間的な推移を表現するためで、移動の目的地が空間的に左方向に設定されているわけではない」68頁