岩波文庫『万葉集(四)』

万葉集(四) (岩波文庫)

万葉集(四) (岩波文庫)

 ↓これらの記事の続きです。乗りかかった船とはまさにこのこと。
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 岩波文庫『万葉集(三)』 - Cask Strength
 岩波文庫本と新大系本の比較。
 例のように、単なる和歌好きの、自分の狭い関心の範囲で気づいた、ほんのほんの一部分だけだよー(そもそも、昨日買ったばかりだし!)。

3228 神奈備の三諸の山に隠る杉思ひ過ぎめや苔むすまでに

 第3句(原文「隠蔵杉」)、新大系は「斎(いは)ふ杉」とよむ。『成唯識論』やら『摂大乗論釈』やらを援用して「隠蔵」とは隠す、隠れる、の意だとしながらも、結局は「いはふ」とよみます。実はこれは真淵『万葉考』以来の説(個人的には、歌のかたちとしてはこれでいいのではないかと思っています)。
 新大系から一転、文庫本では字義を重視して「かくる」と改めたのですけれど、どうでしょうかね。

3787 妹が名にかけたる桜花咲かば常にや恋ひむいや年のはに

 実は、本書で最も注目していた歌の一つ。変えてきましたね・・・。第3句「花咲かば」、新大系では「花散らば」。なんと、咲く、散る、全く逆になっているのです。本文批評に関わる、大変微妙な問題を抱えています。

3825 食薦敷き蔓菁煮て来む梁に行縢掛けて休めこの君

 第5句は「休め」とよむか「休む」とよむかで分かれる部分で、新大系は「休む」とよんでいる。「休む」とよむ場合は、「休むこの君(のもとに)」と、括弧内の意を補うことになります。

時に手を携へて江河の畔を曠望し、酒を訪ひて迥かに野客の家に過る。

(巻17・七言晩春三日遊覧一首の序)
 「酒を訪ひて」(原文「訪酒」)、新大系は誤字説を唱えて「酒を設けて」とします。

「訪酒」の用例は他に未見。人の家の酒をあてにして訪ねる意と解釈することがあるが、漢籍に例の少なくない「設酒」の誤りと推測する。

 これに対して文庫本ではすでに見たように本文を「訪」とした上で、注において、

「酒を訪ひて」は、意味にやや穏当を欠く。諸本の原文「訪酒」は「設酒」の誤りか。

と疑義を提示するにとどめます。おそらく、この態度が正しい。
 ほかにも新説を出している箇所がちょくちょくあります(3300の「ありなみに」をめぐって、など)。
 本書をゆっくり読める時間がほしい・・・。