「此の中に深意有り」

 先日取り上げた岩波文庫『新編 中国名詩選(上)』(『新編 中国名詩選(上)』と旧版との比較 - Cask Strength)ですが、「南朝」章の冒頭に掲出された図版に目を奪われました。

扉=陶淵明飲酒詩(明の文徴明の書、京都国立博物館蔵)「飲酒二十首」其の五(424頁)。文徴明は明の文人。絵も書もよくし、ことに山水画は南宗画(文人画)の名手。第九句の「此中有真意」をあえて「深意」と改めたのか。

(396頁)
 たしかに、「深意」になっている(第5行第3〜4字)・・・。龔斌『陶淵明集校箋』(上海古籍出版社)や袁行霈『陶淵明集箋注』(中華書局)といった代表的な注釈書にも言及されていないので、これは知らなかったです。

(『書道大字典 上』1307頁。これは残念ながら当該例から採録したわけではないようですね)
 そのような異文のあるテクストがかつて存在したのではなく、『新編 中国名詩選(上)』が指摘するように、おそらくは文徴明の私改(記憶違い?)だと思うのですが。陶淵明の真意(←)を案ずるに、「深意」ではなくて「真意」であるべきだろうという気はします。
 「飲酒」詩其十四の最後の句が「酒中有深味」なので、その辺りで記憶が紛れたのでしょうかねぇ?