「今上天皇」という表現について
「今上」の「上」は皇帝という意味なので、「今上皇帝」「今上天皇」という表現は重言となってマズいという議論は、それ自体は全くその通りとしか言いようがありません。しかし、「今上皇帝」「今上天皇」という表現はかなり古い時代から文献上にちょこちょこ現れるので、「この表現は誤りだ!」とドヤ顔でいうほどのものでもありません。
ツイッターで「明治以前の『今上天皇』の用例を知りたい」という質問があったので、超大物による、とびっきり古い例を指摘しました。淡海三船の「大安寺碑文」(宝亀六年、775年)です(参照、CiNii 論文 - 大安寺碑文を読む)。
寺内東院皇子大禅師者、是淡海聖帝之曽孫、今上天皇之愛子也
碑自体は亡逸してしまい、偽作説もありますが、ともあれ中世以前の用例です。作者は「淡海聖帝」の対となる四字句をひねりだすのに苦慮したのかもしれませんが、漢籍(たとえば『広弘明集』の目次や『法苑珠林』等)にごく稀に見られる「今上皇帝」という表現から学んだのでしょう。
ところで、一つ不審に思っているのは、『日本国語大辞典』が挙げる例です。
易林本節用集〔1597〕「帝王 テイワウ 天子 聖主〈略〉今上天皇(キンジャウテンワウ)」
易林本『節用集』の該当箇所は以下の通りです。(節用集 2巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション)
うーん、「今上」と「天皇」は別の語として分けられているような気が(隣の行の「金輪聖王」と比べても)・・・。みなさまはどう思いますか。微妙な判断となりますが、これは「幻の用例」の可能性がありますね。
【追記】コメント欄も御覧ください。変ないいがかりをつけた人たち(約2名)は今頃は自らの不明を恥じている頃でしょうか。