『基本古語辞典』を読む(2)

 余談ですが、初版の「はじめに」にこのようなことが書いてありました。

参考のため、いくつかの古語辞典を調べてみたが・・・残念ながら、拠り所にはなりえないようである。そのなかで、さすがに良心的だなと感心させられた古語辞典が、ひとつだけ存在する。わたくしは、その辞典に高い敬意をはらい、用例はすべてそれと違ったものをあげ(他に用例のない語は別として)、語釈も新しい言いまわしで押しとおした。

 いかにも私好みの小ネタを提供してくれたという感じですが、『基本古語辞典』初版の執筆に小西氏が着手されたのは1962年、刊行は1965年ですから、利用可能だった近代的な古語辞典は限られていまして、敬意が払われた「ひとつだけ」の辞典というのは、後の多くの古語辞典のモデルとなった『明解古語辞典』(初版1953年、改訂版1958年、新版1962年)であろうと容易に推測できます。
 現に、用例は重なりませんし、『基本古語辞典』が明らかに『明解古語辞典』にもとづく記述をしていると思われる例がいくつか見られます。たとえば『明解古語辞典』は「あたる」(当たる)の語釈に「張る」、その用例として新内節の道中膝栗毛が挙げられています。

額に三角な紙があたってあり、ややそんならおりゃ死んだか

これは『明解古語辞典』のオリジナルな見解だと思われまして、『基本古語辞典』でも「あたる」項に語釈として「はりつける」および同じ用例文を挙げています。特殊な用法ですし、参照されたのは間違いないでしょう。