「昔質問したことですが」
とある文章を読んでいて気になったので。
古典を読んでいて「昔」と出てきたときに常に「むかーしむかし、あるところに・・・」のような語感で捉えているととんでもない誤解をすることがあるので注意が必要です。遠近にかかわらず過去のことであれば「昔」といいます。ついこの間、であっても「昔」です。わかりやすい例を挙げましょう。
冉求問於仲尼曰「未有天地可知邪」
仲尼曰「可。古猶今也」
冉求失問而退。
明日復見曰「昔者吾問『未有天地可知乎』夫子曰『可。古猶今也』昔日吾昭然、今日吾昧然。敢問何謂也」
(『荘子』知北遊)
孔子の弟子である冉求が「天地が存在しなかったときのことはわかるでしょうか」と質問したところ、孔子は「わかる。古(いにしえ)は今と同じようなものだ」と答えます。
冉求はそれで一旦引き下がるのですが、翌日になって「昔、私が『天地が存在しなかったときのことはわかるでしょうか』と質問したところ、先生は『わかる。古は今と同じようなものだ』とお答えになりました。昔はその意味がよくわかったのですが、今日は曖昧になってしまいました。どういうことなのか教えてください」と再度質問します。
文脈によって明らかなように、この「昔」は昨日のことを指していっているわけですね。
それに対して、この会話に出てくる「古」は遠い過去です。昨日とか一昨日の話ではありません。比較的近い過去を指す場合でも「今」とは断絶のある過去といったニュアンスになります。