「良血」とは

私信で訊かれたことなのですが、よく見かける「良血(馬)」というのは、具体的にどういう馬なのか?と。
確かに、私自身も頻繁に使用する用語なのですが、いかにも優生学的な言い回しで、あまり好きなことばではありません。すべてのサラブレッド(thoroughbred)は、みんな「良血」なのですから・・・。
そういった個人的な意見は別にして、競馬界で一般的に言われるところの「良血馬」の実在は、やはり厳然たる事実として認められます。つまり、「良血馬」とは、

  1. 父母馬の競走成績が優秀である馬
  2. 父母馬の繁殖成績が優秀である馬

この2点のいずれにかに該当すること、定義はそれに尽きます。
第一点に関しては、「母親の競走成績」、これが一番大事なポイントです。父親が良績を収めていたとしても、それだけでは良血と呼ばれる資格を持ちません。というのも、例外もありますが(後述します)、牡馬のうちで引退後に晴れて種牡馬となれるのは、ごくごく一部の実績馬 *1 だけで、その数は全体の1%にも満たないのです。種牡馬というのは、そもそもが選りすぐられた精鋭たちなのですから、父馬が成績優秀というのは、むしろ当然のことなんですね。
それに対して、牝馬というのは少し事情が変わってきます。馬の妊娠期間は約一年間と長く、しかも犬猫と違って、一回の出産で一頭が原則。ですから、牡馬の場合のように、成績優秀な牝馬だけを繁殖用に回していくと、生産が滞ってしまうわけです。歴史に残るような名馬の血統表を見ても、母親はまったく無名であるケースがよくあります。未勝利の馬どころか、不出走の馬が母馬であることも珍しくありません。例えば、私が愛してやまないトウカイテイオー号のお母さん、トウカイナチュラル号がそれです。
現役時代に好成績を収めている母馬は、繁殖牝馬全体の割合から見て圧倒的に数が少ないわけで、「母親の競走成績」が良血としての条件であることは、これで了解していただけるかと思います。
この第一点の観点から、現役日本馬の最高「良血馬」を選ぶとしたら、アドマイヤグルーヴになるでしょうか。父サンデーサイレンス号、これは言わずと知れたスーパーヒーロー。母エアグルーヴ号は、96年のオークス馬で、そして今も語り草になっている、97年天皇賞(秋)のウィナー。その17年ぶりの牝馬による天皇賞制覇の偉業が認められて、97年の日本年度代表馬になりました(その年にはジャパンカップ2着、有馬記念3着もあった)。しかも、母の母であるダイナカール号もオークス優駿牝馬)を勝っていますので、母系では親子三代でG1馬を輩出したことになります。
ちなみに、目下、競馬ファンが大いに期待しているのは、メジロドーベル号の子どもたちなのですが・・・。
第二点は、言い換えれば、「兄弟馬の競走成績が優秀である馬」ということで、大活躍した兄姉を持った弟妹(しかも、それが全弟・全妹なら、さらに良い)は良血だと言われます。これも理解しやすいですね。いろいろいますが、今ならやはり桜花賞ダンスインザムードが代表格か。まず、半兄エアダブリン号は重賞3勝。全姉ダンスパートナー号はオークスエリザベス女王杯を制し、引退までに獲得賞金6億円を叩き出した。そして、全兄ダンスインザダーク号は菊花賞馬。錚々たるメンバーです。余談ですが、これら名馬を量産した母である Dancing Key 号自身は、一度もレースに出たことがありませんでした。
上で、種牡馬になるには、原則として優れた競走成績を残さなくてはいけないと書きました。しかし、なかには、実戦ではわずか3戦1勝、成績だけなら下の中くらいのレベルなのに、種牡馬として生産界に残ったミラクルアドマイヤ号のような馬もいます。
実は、これは、ミラクルアドマイヤ号自身が「良血」であるための措置なのです。まず、ミラクルアドマイヤの父は、トニービン号。ヨーロッパ最高峰レース「凱旋門賞」の勝者であり、オーナーの地元イタリアでは銅像が建っています。上に挙げたエアグルーヴ号や、ダービー馬ウイニングチケット号、ジャングルポケット号の父として知られる。
母のバレークイーン号、これも偉大な馬でして、特に、フサイチコンコルド号の母として記憶されています。アグネスタキオンの同期で、京成杯を勝ってクラシック路線を盛り上げたボーンキングもその産駒です。
トニービン号は、5年前に急逝してしまいました。ミラクルアドマイヤ号には、その後継馬の一角を担うべく、大きな期待が寄せられています。
実力の世界とは言われますが、やはり「血統のスポーツ」ということ。

*1:G1ホース、あるいは、重賞を何度も勝っている、など