『畏悦録』

 水木しげるの短編集で、66〜72年の作品を収録しています。

 「血太郎奇談」の出来が群を抜いている。「猫又」も良い*1
 ところで、「暑い日」は、解説で三浦俊彦氏がすでに明かしていますが、W・F・ハーヴィの作品([rakuten:book:11886617:title]に収められた新訳の題では「八月の炎暑」)をもとにしています。しかし、氏の、

「暑い日」はW・F・ハーヴィーの短編小説「炎天」を下敷きにしているが、原典よりこの「暑い日」の方が数倍こわい。特に結末の、暗示を超えた触感を見てほしい。絵を使わない小説ではこの味を出すのは絶対無理だ。

(解説361頁)というコメントはどうでしょうか。世の中にはテキストを映像化したものを見ることで怖くなるものと、頭で勝手に想像することで怖くなるものの二種類あるわけですが、どう考えてもこの作品は氏の言う「暗示」で怖くなるタイプのものだと思うのですが・・・。原作は、主人公の書き残したメモだという設定なわけで、絵を使う漫画では、この味は出ないでしょう。
 もう一つ残念なのは、「天国」とか「コケカキイキイ」などの、文明批判で話をまとめる作品群ですかね。面白そうな出だしだけに、もったいない。詮無いことですが。

*1:「猫は岡フグといってうまいんだ」(91頁)