芒に月(3)

 日が落ちる、野は風が強く吹く、林は鳴る、武蔵野は暮れんとする、寒さが身にしむ、その時は路をいそぎたまえ、顧みて思わず新月が枯れ林の梢の横に寒い光を放っているのを見る。風が今にも梢から月を吹き落としそうである。突然また野に出る。君はその時、  
   山は暮れ野は黄昏の薄かな
の名句を思いだすだろう。

国木田独歩『武蔵野』)
 芒に月(1)で武蔵野のススキを詠む歌を取り上げたのは理由があります。濱口博章・山口格太郎『日本のかるた』(95頁)が古い花札の写真を紹介しており、芒のカス札二枚には『新古今和歌集』所収の和歌の上の句と下の句が書き添えられているのです。*1

行く末は 空もひとつの 武蔵野に 草の原より 出づる月影

(『新古今集』秋上・藤原良経)――私が歩んでいく道の果て、空と地が一つになって見える武蔵野の草の原からのぼる月の光よ。

*1:菖蒲のカス札二枚には、例の「からころも・・・」が書き添えられています。