「乗」ではなくてやはり「桑」かも――「桑」ではなくて「乗」で「四十八」と解く説話(2)

 「桑」ではなくて「乗」で「四十八」と解く説話 - Cask Strengthの続報。結論を先取りして言えば、『開天伝信記』で「正成『乗』字」と「乗」にするのは誤りで、「耼」つまり「桑」ではないか、ということ。
 経緯を簡単に説明しますと、『唐人軼事彙編』で当該エピソードを初めて目にして、そこには「乗」と。念のために『唐五代筆記小説大観』で確認しても「乗」だったので、上記記事となったわけですが、「乗」を分解して「四十八」になるかねぇ、と一応の疑義を挟んでおきました。

 そして、先日気づいたのですが、同じエピソードを紹介する宋・銭希白『南部新書』では「乗」ではなくて「耼」になっているのです(漢文日録23.1.18による)。

(『唐宋史料筆記叢刊 南部新書』145頁)この「耼」はまさに「桑」の異体字です。案の定、『開天伝信記』に本文上の問題があるらしい。
 学期末の課題レポートであれば、ここで『開天伝信記』諸本の本文や他の文献に見られる引用文を徹底的に調査することが求められるわけですが、このブログは殴り書きなのでそこは勘弁してもらうとして、とりあえず手元で見られるものをざっと見てみると、『太平広記』(巻136)所引『開天伝信記』が、やはり「耼」のような字になっていました。

(『太平広記』中華書局974頁。『太平広記会校』は未見)
 以上のことを考えあわせるに、『開天伝信記』でも元来「耼」だったのでしょう。『太平広記』では引用にあたってその字体を活かしたものの、その異体字を「桑」に直したものもあり・・・

(『淵鑑類函』巻26「石二」)
・・・「耼」を読み誤って「乗」にしたものもある。実情はそんなところではないでしょうか。

(百川学海本『開天伝信記』。挥尘录+丁晋公谈录+王文正公笔录+开天传言记(百川学海本) page 109 (Library) - Chinese Text Project 百川学海本は「白石赤文」を「白石篆文」にするなど、注意すべき異文が見られます)
 「乗」を分解すると「四十八」になる説は幻だったということになります。