桜に幕(4)

 地球の温暖化が人災であることは疑いの余地がなく、二十一世紀の人類最大の課題の一つであると言っても過言ではないのですが、自然界に見られる大きな変化をなんでも温暖化のせいにすべきかどうか。
 例えば、独立行政法人科学技術振興機構は、温暖化の影響として桜の開花日が早くなっていることをデータで示しています。しかし、例えば、吉野の桜の開花は江戸時代の段階でも早まったことがありました。

ある人の、吉野道の記の内に、宿のあるじのかたるをきけば、吉野の花、古より立春の後、八十八日を経てさかりなりと云伝へ、中ごろよりは、七十五日と申ならはせしかど、十年ばかりこのかたを、かうがへ侍るに、六十日を経るころより咲出で、六十四五日にして、またくさかりなり。又麓はとく、奥はをそき事に侍りしかど、それもむかしのごとくにはあらで、麓も奥も、同じころのやうになりし。

(『秉穂録』第二編上巻)この「宿のあるじ」の証言に信憑性があるとして、吉野では昔は立春後八十八日にして満開になっていたのが、それほど遠くない昔になると七十五日後に満開するようになり、この十年では六十日後に開花、六十四五日に満開を迎えるようになったといいます。現在の吉野の開花状況はどうなっているのでしょうか。
 環境の変化を、温暖化、の一言で済ませてしまったとき、他にありうる要因を見えにくくする、あるいは過小に評価することになりやしないかという危惧を素人ながら抱いています。