真・初心者のための仏教講座(1)

 過目抄でも呆れ気味にブクマした http://hamusoku.com/archives/3553533.html ですが、大袈裟にいえば、わが日本伝統文化の危機だとも感じました。そこで、がらにもないことですが、古典的な(最新の教義研究とは全く関わらないことをお断りしておきます)仏教理解がどういうものであったかということに関心をお持ちの方々向けに、必要最低限の道しるべを提供したく存じます。本当に口足らずな説明にしかなりません。
 仏教が宗教である以上、実践(信仰)と教義は不可分のものです。古典時代もそうでして、大きく分けて、1 法会・勤行、2 仏伝(および本生譚)・高僧伝・往生伝・霊験譚・寺社縁起、3 (宗派別の)経論研究、の3つの点において日本人は仏教に慣れ親しんでいました。わたしの当面の関心はスコラ的側面、つまり教義(「3」)にあります。ただし、ここでお話しすることは特定の宗派を称揚するものでも、排斥するものでもありません。当然のことながら、仏教の信仰にいざなうものでもないということをご了承ください。わたしたちの先祖が、どういう世界観のなかに生きていたのかを知るための出発点を示すものに過ぎません。
 予告的にいえば、『倶舎論』を読むことから始まる、ということになります(『般若心経』や『大乗起信論』ではないことに注意)。しかし、そんなものいきなり読めるわけがありません。どの分野でもそうなのですが、門外漢を苦しめるのは、術語(専門用語)の難解さです。
 そこで必要になるのは辞書なのですが、仏教語辞典は相当な予備知識を求められるものが結構多い。わたしの座右にある(宝の持ち腐れの)天台宗の高僧が大正年間に出した辞書も、とても初心者が使うような代物ではありません。そこで、お勧めするのは『例文仏教語大辞典』(小学館)です。

例文 仏教語大辞典

例文 仏教語大辞典

 本書は「日本の仏教語に焦点をしぼった」もので、「文献をほぼ日本人の書いたものに限定し」たので、おそらくインド哲学系の方々には評判芳しくないでしょうけど、忘れてはいけないのは、われわれは近代以前までは漢訳仏典にほぼ完全に依存していたという事実です。わたしの経験でいえば、経論に出てくる主要な術語は本書で全てカバーされています。さらに、本書が重宝されるのは、一冊型であること(その割には情報量が多い)、そして、語義説明がわかりやすい点にあります。
 たとえば、「十二因縁」。

有情の生存を構成する要素である、無明・行・識・名色・六処(六入)・触・受・愛・取・有・生・老死の十二が、「これがあるとき、かれがあり、これがないとき、かれがない。これが生ずるとき、かれが生じ、これが滅するとき、かれが滅する」という相依相関の関係にあることを説くもの。(以下略)

 「有情」(うじょう)がわからなくても心配はありません。「有情」を引くと第一義に、

感情など心のはたらきを持っている一切のもの。人や鳥獣などの生き物。

 非常にわかりやすいですね。では「無明」とは何でしょう。

存在の根底にある根本的な無知をいう。真理に暗い無知のことで、最も根源的な煩悩。生老病死などの一切の苦をもたらす根源として、十二因縁では第一に数える。(以下略)

 このような調子の平易な説明なので、芋づる式に調べていくと、いつのまにか仏典が読めるような気がしてくるのが本書の長所です。
 あと、『例文仏教語大辞典』とは性格を異にしつつも忘れられない名著は『総合仏教大辞典』(法蔵館)ですが、これについての説明は省略します。
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