「屑」には「いさぎよい」の意もある?


追加人名用漢字最終案は488字 当初案から88字削る


「屑」には「星屑」という熟語もあるし、「いさぎよい」の意味もある、ということで最終的に残った、とN氏から聞く。検証してみましょう。


宴爾新昏 不我屑以 (『毛詩』・谷風)

あなたは新しいお嫁さんと仲良くし、わたしを潔しとしない(目もくれない)で・・・と、棄てられた前妻の恨み言(「我を以ってするを屑ぎよしとせず」よみかたには問題アリ)。この場合、「不屑」を「もののかずにせず」(物の数にせず)とよむとわかりやすい。

●(テン)髪如雲 不屑髢也 (同、君子偕老)

黒髪は美しくて長く、かもじを潔しとしない(不必要なものとして無視する)、という美女の形容で、「不屑」とは「不潔」と同義。

是故、諸侯雖有善其辞命而至者、不受也。不受者、是亦不屑就已。(『孟子』公孫丑・上)

伯夷について孟子が品評を加えている箇所ですが、「諸侯が伯夷を厚遇して出仕を求めても、伯夷はそれに応じなかった。応じなかったのは、それを潔しとしなかったからだ(「受けざるは、これただ就うるを屑ぎよししとせざればなり」)」、の意。

蹴爾而与之、乞人不屑也。(同、告子・上)

ごく粗末な飯であっても、「蹴爾」(ふみつけて)して与えれば、飢えて食を求める人でもそれを潔しとはしない(「乞人も屑ぎよしとせざるなり」)。要するに、相手が困窮していたとしても、援助のやり方が屈辱的であれば、相手はそれを恥として受けないことがある、という我ら先進国には耳の痛い警句。

孟子曰、教亦多術矣。予不屑之教誨也者、是亦教誨之而已矣。(同、告子・下)

教育法もさまざまあって、わたしの、教えるのを潔しとしないから教えない(「予のこれを教誨することを屑ぎよしとせざることも)という流儀も、教育なのだ。・・・ものをすぐ教える前に相手に反省を促す、ってのは確かに正しいと思いますが、これを現在の大学でやったら、学生からの「教員評定」では低い点になります。

狂者又不可得、欲得不屑不潔之士而与之。(同、尽心・下)

かつて孔子が、中庸な人間が一番だが、それが得られないようなら、狂者や●(ケン)者(「狂●」)がよろしい、と述べたことに対する論評。「●者」は消極的な人間だが、正しくない行為を潔しとしない士(「不潔を屑ぎよしとせざるの士」)であるから、凡人より尊重される。

と、確かに「屑」には「いさぎよし」という語義で使われる場合が、特に古い文献に出てきますね。しかし、すべて「いさぎよしとしない」、つまり「不屑」というかたちでしか出てきませんが。