花札

牡丹に蝶(1)

六月の10点札。 一匹の蝶は韃靼海峡を渡るようですが、二匹の蝶は牡丹の上を舞います。 戯蝶双舞看人久 残鶯一声春日長 (白居易「牡丹芳」)――戯蝶双舞して看る人久しく。残鶯一声、春日長し。

菖蒲に八橋(4)

10点札の下部に描かれているのが橋でして、伊勢物語絵や工芸品によく見られるものと同様のパターンだと認められます。この様式があちらこちらの現実の庭園にも使われていることはご承知の通り(写真は小石川後楽園)。 ただ、実態はこうではなかったという源…

菖蒲に八橋(3)

業平が見たであろう八橋の景観は、かなり早い段階で亡びてしまったとされます。中世に行なわれた治水と開墾で湿地帯がなくなり、水辺の植物である杜若も、そして当然ながら橋も廃れました。 しかし、後世の紀行文学や伊勢物語絵などを目にするにつけ、衰亡が…

菖蒲に八橋(2)

節は、五月にしく月はなし。……紫の紙に楝の花、青き紙に菖蒲の葉細く巻きて結ひ、また、白き紙を根してひき結ひたるも、をかし。 (『枕草子』) この「菖蒲」はアヤメではなくて、今で言うショウブのことですが(菖蒲に八橋(1)参照)、それはさておき、料紙…

菖蒲に八橋(1)

むかし、男ありけり。その男、身を要なきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき国求めにとて、行きけり。もとより友とする人ひとりふたりして、行きけり。道知れる人もなくて、まどひ行きけり。三河の国、八橋といふ所に至りぬ。そこを八橋…

藤にホトトギス(4)

10点札の左下、そしてこのカス札にも描かれている通り、藤は蔓を持っています(まあ、言うまでもないことですが・・・)。 この蔓は強靭で、縄の代用品になったりするのですが、ちょっとした呪力を駆使すれば異常な威力を発揮するのでご注意を。 葛城山に住…

藤にホトトギス(3)

鶯とメジロはお互い縄張り争いをしてもおかしくないと思うのですが、兄弟のような間柄であることは梅に鶯(4)でも言及しました。 では、鶯のライバルは誰かというと、このホトトギスなのです。ホトトギスは鶯の巣に卵を産み付けて、鶯に子育てをやらせると伝…

藤にホトトギス(2)

藤の5点札、短冊には何も書かれていません。詩歌が書かれていない短冊というのも、何か間が抜けているような感じがします・・・。 十世紀頃の平安京でのお話。 宇多法皇の邸宅であった亭子院には妃が多く住んでいたが、ある日法皇は河原院という別の邸宅を造…

藤にホトトギス(1)

藤の10点札。 ウグイスは春の到来を告げる鳥でしたが、ホトトギスは夏の到来を告げる鳥です。『万葉集』巻十七の大伴家持の歌の題詞に「立夏四月、既経累日、而由未聞霍公鳥喧。因作恨歌二首」(立夏四月となり、すでに数日経過したが、まだホトトギスの鳴き…

桜に幕(4)

地球の温暖化が人災であることは疑いの余地がなく、二十一世紀の人類最大の課題の一つであると言っても過言ではないのですが、自然界に見られる大きな変化をなんでも温暖化のせいにすべきかどうか。 例えば、独立行政法人科学技術振興機構は、温暖化の影響と…

桜に幕(3)

桜に幕(2)で紹介した「芳野賦」の冒頭に、 よし野を御吉野といふは、皇居の地なればなり。山・川・里・嶺・嶽・高根・尾上・山の井・花園を詠ず。すべて二十一代の歌数三百七十餘首。猶家々の集、物語類、詩連俳諧のたぐひ、佐川田喜六があさなあさな、貞室…

桜に幕(2)

桜の短冊には「みよしの」とあり、これは奈良県吉野川流域の地名「吉野」の美称です。そして、吉野といえば、 さくらは吉野に名たかく、よしのは桜にて名を挙げたり。麓より奥の院まで、左右の山々、前後の谷々、ただ雲を攀上り、ただ雲をくだるが如し。海道…

桜に幕(1)

桜の20点札、桜に花見幕。綱を張って幕をかけるわけですが、幕の代わりに小袖をかけることもあって、小袖幕とも言われます。 東叡山 黒門より二王門までの並木の桜の下には、花見衆なし。東照宮の御宮の脇、後松山の内、清水の後に、幕走らかして見る人多し…

梅に鶯(4)

梅に描かれている鳥は実はメジロである。ウグイスの体は茶褐色と白であるが、昔から勘違いされている。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E6%9C%AD#.E7.B5.B5.E6.9F.84 もし春先に梅の花の蜜を吸っている小鳥を見かけたら、それは十中八九メジロです…

梅に鶯(3)

それにしても、「あかよろし」の「あか」の語義については諸説ありますが、「よろし」の方は「宜し」だということで疑問は持たれてないようです。しかし、「赤宜しい」では、やはり意味不明だといわざるをえません。 博打の道具ですから、隠語の匂いもかすか…

梅に鶯(2)

鶯の宿札か梅に小短冊 貞盛 (『埋草』巻一・春) 近いうちに飲もうと思っている八木酒造さんの「赤短の梅酒」。 ちなみに「あか」は酒の異名でもあります。大田南畝の号(四方赤良)、そして書名『四方のあか』のもとになった銘酒「よものあか(ら)」が想…

梅に鶯(1)

梅にウグイスという取り合わせは万葉集からある、というように説明されていますし、もちろんそれは正しいのですが、この札に描かれているのは紅梅ですから、この背景を説明するのに万葉歌を持ち出すのは問題があります。というのも、奈良時代の日本には白梅…

松に鶴(4)

鶴が松の枝に巣くうと謡う今様を(1)で紹介しましたが、鶴は樹上に巣作りすることはないそうです。花札の鶴が松の枝にとまっているわけではないというのが、そういう生態学の知見に基づく描写なのかどうかはわかりませんが。 かくて、宇多の松原を行き過ぐ。…

松に鶴(3)

松に鶴は画題として定着していますが、まだ目にする機会のない作品が一点あります。 朽木家となん、探幽が画ける松に鶴とやらんの重器あるよし。右時代に素人にて久須美六郎左衛門といへる名人の画書ありしが、朽木に於て探幽が書る松に鶴の絵をみて、「面白…

松に鶴(2)

松と梅の短冊には「あかよろし」の五文字が書かれていて、花札最大の謎となっています。おそらく古歌の一句に偽装しているのでしょう。 その意味について、 花札の松・梅の短冊の札に記されている文言。「明らかに宜しい」の意か。 (http://d.hatena.ne.jp/…

松に鶴(1)

正月の20点札、「松に鶴」。一般的には右上に初日の出も描かれます。 蓬莱山ニハ千歳経ル、万歳千秋重レリ。松ノ枝ニハ鶴巣食、巌ノ上ニハ亀遊 (『源平盛衰記』巻十七「祇王祇女」)長寿を予祝するめでたい今様。松は常緑樹で永遠の象徴(「巌」と対になっ…